「認知症発症や生命予後に影響する咬合崩壊を防ぐ治療法とは」
一昨日(11月20日)、岩手医科大学歯学部同窓会の主催の学術研修会が岩手県歯科医師会館で行われ、約130名の歯科医師が参加しました。
非常に示唆に富む内容でしたので要約をご紹介いたします。カギ括弧[ ]内は私の註釈です。
講師は、東京医科歯科大学臨床教授の柏田聰明(かしわだ・としあき)先生。
演題名は「咬合崩壊を防ぐための補綴修復治療 ― 超高齢社会で求められるパラダイムシフト ―」
2007年、わが国は高齢化率が21%を超えて、超高齢社会に突入した。高齢者の補綴修復[被せたり詰めたりする歯の治療]のあり方も、社会の変化に応じて転換を迫られている。
咀嚼機能喪失(咬合崩壊)が認知症発症や身体的健康悪化、生命予後などに大きく影響するというエビデンスがある。咬合再建[歯科治療で噛めるようにすること]はそれらのリスクを減じるが、困難な補綴[歯の治療法]に挑戦する前に、高齢になっても咬合崩壊[歯が失われて噛めなくなる状態]を起こさない治療はどうあるべきかを追求すべきである。
85歳で咬合崩壊を招かないためには、60歳までは欠損[歯の欠け]をつくらないことである。そのために必要とされるのが予防であることは論を俟たないが、では不幸にして補綴修復が必要になった歯はどうすべきか。それは、極力歯髄を守ること[歯の神経を取らないこと]、絶対に二次齲蝕[治療した歯に生じるむし歯]の起こらない治療を行うこと、歯根破折を回避する材料と治療法を選ぶこと、言葉を換えれば「予防的修復治療」を行うことである。
予防的修復治療で演者が重視してきたのが、咬合力と細菌である。修復歯[歯の治療を行った歯]の二次齲蝕も、歯根破折も、原因は細菌と咬合[咬み合わせ]にある。これらをターゲットに、長年、歯質-修復物界面を緊密に封鎖し、歯質を強化する目的で、ADゲル法と徐放性フッ素含有接着材を臨床応用してきた。この方法で、歯根破折や二次齲蝕など補綴修復で起きたトラブル歯であっても、咬合力に抗して長期に機能させることが可能になった。結果、修復歯のトラブルは激減し、2008年からは、定期的なメインテナンスに応じることを条件に、治療の15年保証を行うようになっている。
超高齢社会の到来を、義歯やインプラントの需要の増加と結びつけて考える前に、これからの補綴修復学は、咬合崩壊を防ぐために何をすべきかに、もっと関心を向けるべきである。
―― 約半世紀にわたり歯学教育と歯科治療の第一線で活躍してきた先生の言葉には重みがありました。咬み合わせの崩壊は、認知症発症や身体的健康悪化、生命予後などに大きく影響します。生涯歯を失わず咬み合わせを崩壊させないためには、被せたり詰めたりする歯の治療が必要な欠けを作らないこと。60歳を過ぎたら歯の割れを防ぐ処置をすること。やむを得ず歯の修復治療が必要になった時には、ADゲル法と徐放性フッ素含有接着材を用いることが重要であることが示されました。
それぞれが単純なことではありますが、とても重要で有益なこれらの情報が、出来るだけ早く歯科界のみならず広く国民全体に広まること願っています。
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